法人名義の不動産を売却して利益が出た場合、法人の利益として課税対象となります。法人と個人ではかかる税金の種類や課税の仕組みが異なるため、違いを理解することが大切です。
この記事では、不動産売却にかかる法人と個人の税金の違い、法人にかかる税金の種類、節税対策などについて詳しく解説します。
法人名義の不動産売却を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
不動産売却における「法人」と「個人」は不動産の収益や費用に関する考え方が違う
不動産売却の利益や税金の扱いは、法人と個人で考え方が大きく異なります。最初に、不動産売却にかかる税金における法人と個人の、それぞれの特徴を解説します。
法人が不動産を売却する場合
法人が不動産を売却する場合、個人とは異なり、売却益は事業全体の収益として扱われます。
個人が不動産を売却する場合、例えば自宅を売却して利益が出たときは、その利益に単独で譲渡所得税が課税されます。一方、法人の場合は不動産売却益だけでなく、その年の事業で得られたすべての利益を合算して法人税が計算されるのです。
また、法人では不動産売却に関連する広告費、仲介手数料、管理費など、より幅広い経費を計上できます。さらに、会計上の減価償却を利用して、税負担を軽減する対策も可能です。
不動産の引渡し日の考え方が個人とは異なるので注意
不動産売却における引渡し日の考え方は、法人と個人で異なります。個人の場合は不動産の引渡し日が売却日となります。一方、法人の場合は原則として引渡し日を基準としながらも、売買契約締結日を売却日とすることも可能です。
特に事業年度をまたぐ取引の場合は、売却日の選択が税務上の重要なポイントとなります。なぜなら、売却日に収益を計上するためです。その事業年度の収益状況により、どちらの年度で売却を計上するかを慎重に検討する必要があるでしょう。
なお、土地のみの売却の場合は、代金の約50%を受領した日か所有権移転登記の申請日のいずれか早いほうが引渡し日となる点にも注意が必要です。
個人が不動産を売却する場合
個人が不動産を売却する場合、売却による収益は「譲渡所得」として他の所得とは分けて計算されます。この譲渡所得に対して、所有期間が5年以下の短期譲渡所得では39.63%、5年を超える長期譲渡所得では20.315%の税率で課税されます(税率は所得税と住民税の合計)。
また、個人の場合は不動産売却による利益や損失を、給与所得など他の収入と合算しての計算はできません。ただし、マイホームを売却する場合には、利益に対して3,000万円の特別控除が適用できるといった、個人ならではの税制上の優遇措置を活用できる場合もあります。
このように、個人の不動産売却では、その取引だけを独立して扱い、売却益に応じた税金を計算する仕組みとなっています。
法人が不動産を売却する際にかかる税金と計算方法
法人が不動産を売却すると、以下のような税金がかかります。それぞれの特徴と、具体的な計算方法を解説します。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 印紙税
- 消費税
法人税
法人税は、法人の事業活動で得られた所得に対して課される基本的な税金です。不動産売却による利益も、他の事業収益と合算して課税対象となります。そのため、不動産の売却益が生じても、事業の収益が赤字であれば、法人税は課されない可能性もあります。
法人税の計算式は以下のとおりです。
法人税額 = 課税所得 × 税率
課税所得 = 益金 - 損金
益金とは法人税法で定められた「法人税を計算する際の収益」を指します。損金とは「法人税を計算する際の費用」です。
税率は法人の規模によって異なり、資本金1億円以下の法人の場合は、以下のとおりです。
- 課税所得800万円以下の部分: 15%
- 課税所得800万円超部分: 23.2%
課税所得が1,000万円の場合、法人税額は以下のように求めます。
法人税額 = (800万円×15%) + (200万円×23.2%)
=166.4万円
法人住民税
法人住民税は法人が事業所を置く都道府県や市町村に納める税金で、都道府県民税と市町村民税の2種類があります。法人税と同様に、不動産売却益を含む会社の所得に対して課税されます。
法人住民税の計算式は以下のとおりです。
法人住民税額 = 均等割 + 法人税割
均等割とは会社の資本金や従業員数に応じてかかる税金で、法人税割は法人税額を基準に計算される税金です。
法人税割の計算式は以下のとおりです。
法人税割 = 法人税額 × 税率
法人税割の税率は、以下のとおりです。
- 都道府県民税: 1.0%
- 市町村民税: 6.0%
一方、均等割は資本金や従業員数に応じて決まる定額部分です。例えば、資本金1,000万円以下で従業員50人以下の場合の均等割額は、以下のとおりです。
- 都道府県民税:2万円
- 市町村民税:5万円
赤字決算の場合、法人税割は課されませんが、均等割は納付しなければなりません。
法人事業税
法人事業税は法人が事業を営むうえで利用する公共サービスや施設の経費負担として、都道府県に納める地方税です。不動産売却による利益も法人の事業収益として課税対象となります。
法人事業税の計算式は、以下のとおりです。
法人事業税額 = 課税所得(不動産売却益を含む)× 法人事業税率
税率は各都道府県で定められており、法人の資本金規模や所得金額によって異なります。資本金1億円以下の法人の場合は所得に応じて課税されるため、赤字の場合は納税義務が発生しません。また、法人事業税の大きな特徴として、支払った税額を翌年度の損金として算入できる点が挙げられます。
印紙税
印紙税は、不動産売買契約書などの課税文書を作成する際に課せられる国税です。収入印紙を契約書に貼って消印する方法で納税します。不動産売却時には、売主・買主がそれぞれ保有する契約書に収入印紙の貼付が必要です。
収入印紙の金額は契約金額によって異なり、2027年3月31日までは軽減税額が適用されます。以下が主な税額です。
契約金額 | 本則税額 | 軽減税額 |
---|---|---|
100万円超~500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超~5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超~1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円超~5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
なお、収入印紙の貼り忘れや消印漏れがあった場合は、本来の税額の最大3倍の過怠税が課される可能性があります。
消費税
消費税は、商品の販売やサービスの提供などにかかる税金です。不動産売買においても、一定の条件を満たす場合には消費税が課税されます。
ただし、消費税はすべての不動産取引にかかるわけではありません。土地の売却は消費税の非課税取引とされているため、消費税はかかりません。
一方、建物の売却は、売主が事業者の場合に消費税の課税対象となります。
例えば、法人が所有する土地と建物を合わせて5,000万円で売却し、その内訳が土地3,000万円、建物2,000万円だったとします。この場合、土地の分には消費税はかかりませんが、建物には消費税がかかります。消費税率を10%とすると、建物にかかる消費税は2,000万円 × 10% = 200万円です。
法人が不動産を売却する際にできる節税方法
法人が不動産売却で利益を得た場合にできる節税方法は、個人とは異なります。以下のような、法人でなければできない対策が立てられます。
- 新規物件を購入する
- 退職金支給などで利益を減らす
- 特別償却可能な設備投資を行う
新規物件を購入する
不動産売却で得た資金を新規物件の購入に充てると、節税効果が見込めます。不動産の購入費用は購入した年に一括計上できませんが、償却期間中は減価償却費を計上できるためです。減価償却費の計上により、利益を圧縮して法人税を軽減できます。
節税効果を高めるためには、耐用年数の短い木造や軽量鉄骨造の物件を購入するのがポイントです。耐用年数が短いほど、1年間で計上できる減価償却費が多くなり、節税効果が高まります。
また、建物の取得費用だけでなく、仲介手数料や登録免許税などの諸費用も経費に算入できるため、忘れずに計上しましょう。
退職金支給などで利益を減らす
不動産売却によって得た利益は、役員への退職金支給や従業員への賞与として活用すると、利益を減らし、税負担の軽減につながります。
退職金や賞与は損金として算入できるため、課税所得を減らす効果があります。ただし、退職金や賞与の額が多すぎると、税務調査で否認される可能性もあるため、適切な金額を設定しなければなりません。
また、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」により、少額減価償却資産の取得も有効な手段です。この特例は要件を満たす中小企業者等であれば、30万円未満の減価償却資産の取得価額の全額を損金に計上できる制度です。パソコンやスマートフォンなどの購入に活用すると、節税効果を期待できます。
特別償却可能な設備投資を行う
中小企業経営強化税制を活用すれば、不動産売却益に対する効果的な節税が可能です。この制度では、経営力向上計画の認定を受けた事業者が、特定の設備を導入する際に特別償却または税額控除を選択できます。
具体的には、取得価額の全額を特別償却として計上する、または資本金規模に応じて取得価額の7%から10%の税額控除を受けることが選択可能です。対象となる設備には、160万円以上の機械装置や、70万円以上のソフトウェアなどが含まれます。
ただし、この制度は2025年3月31日までの時限措置となっています。利用を検討する際は最新の情報を収集し、内容をよく確認するようにしましょう。
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法人名義の不動産売却は、税金の扱いや節税方法が個人とは大きく異なります。法人は事業の収益を含む全体の収益が課税対象となるので、個人よりも節税対策として多くの方法を選択できます。どのよう方法が効果的かは、税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。
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